2017-09

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くじらぐも


その雲はまるで、大海を泳ぐクジラのようだった。

いつものようにバイトを終えて駐輪場へ向かう途中、それは突然私の目に飛び込んできた。

細長く歪んだ円形の雲が、夕方の空を覆っている。

昼頃に家を出たが、その時は忌々しいくらいに日が照っていて、白い入道雲が太陽を避けて浮かんでいた。それが、いつのまにか、「晴れ」から「曇り」の天気に変わってしまったらしい。

水色の空、その上に白や灰色、濃い灰色の雲が様々な形で踊っている。

典型的な夏空の雲のように、はっきりとした陰影を持っているものや、その一方で、輪郭が空に溶けてしまって曖昧に伸びている雲もあった。

そんな中で、一番自己主張していたのが、クジラの雲だった。

大きい。とにかく、大きい。

尾の方は見えないが、灰色っぽい空から、その体は徐々に姿を現している。

淡い水色と灰色の混じった霞のような胴体から、少しずつ白っぽさを増してきた胴体が続き、頭の部分は真っ白な丸い雲が形作っていた。

胴体から尾にかけては、とても滑らかで優美な曲線を描いている。

だが、本物のクジラであれば口がある部分は、むしろ凹凸が激しく不恰好だった。

私の目は、ちょうどその部分に吸い寄せられる。

ぼこぼこと水泡が生まれているかのような頭部には、その手前に限りなく黒に近い雲が邪魔をしていて、雲そのものの陰影とあいまって、奇妙な光景を作り出す。

凹凸と、影と、そこに重なる黒雲。

それはまるで、一つの白い物体から、無数の人の顔が生えているかのような、そんな景色だった。

人の横顔、悲しげな顔、どこか遠くを見つめている表情。

私は雲に、それらの多彩な「人間」を見た。

自転車をこぐと、汗が流れた。

坂になって、私は必死に駆け上がった。陸橋の頂上からならば、もっとよく見えるに違いないと思ったのだ。

だがその目論見は、外れた。

一番高いところに上ると、線路に落ちないようにと配慮された柵や、電線とそれを支える電柱の所為で、半分ほどが隠れてしまっていた。

失敗したな、と思った私は、クジラの反対側を見る。

すると、その方角には、別のものがあった。

雲の重なり合った隙間から、夕陽が放つ強いオレンジ色の光が漏れていた。

高いところでは見えなくなってしまった、クジラ。

低いところではその存在が隠れてしまっていた、落陽。

正反対だが、どちらも私の目を惹いた。

陸橋の坂を滑り台のように下って、信号待ちになった。

ここならばある程度開けているから見えるだろう、と、空を仰ぐ。

見えた。

だが、そこにもうクジラはいなかった。

あの美しい頭部は、崩れてしまっていた。

今日はそれほど風はなかった。

けれど、空気が動かないからといって、雲の粒子が完全に静止するはずがない。そんなことはできない。

だからあの光景は、いくつかの人間の顔を持ったクジラの頭は、その瞬間にしか存在しないものだったのだ。

一瞬、一瞬ごとに、雲はわずかに動いていく。

すべての粒子が同じ方向に、同じ速さで流れていくのならば、形は保たれる。

しかしそれも、ありえないことだった。

どれほど動きが完璧に同じでも、見る人間の位置や角度が違えば、その光景はまったく違ったものとなる。

私は、その一瞬の姿を、きっとすぐに忘れてしまうだろう。

忘れっぽいからだ。どれほど美しく、どれほど価値のあるものでも、私の脳は忘れてしまう。

だから、写真を撮った。

既にその美しさは失われてしまったけれど、「美しいものを見た」という私の身に起きた素晴らしい事実を忘れないためにも、証拠を撮っておこうと思った。

瞬間の美を、私の目は捉えた。

だからその骸だけでも、どこかに残しておきたかった。

もうその骸も、形を変えてしまっただろうけれど。

***

cloud2

***


えっと・・・そういうわけで、バイトの帰りに雲を見た話です。

マジで綺麗だったんです。感動したんですよ。雲みて感動するなんて、何年ぶりだろう。

写真は携帯だし、しかも向きが90度違うし、そもそも綺麗だと思った瞬間ではないんですけれど。

でもまあ、残骸だけでも。

・・・ああ、ちなみにあの夕陽、写メしようと思ったら、見えなくなっちゃいました。

残念。



長くてすいません。


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Author:鈍色
鈍色だったり丼だったりYOUだったり、と場所によって名前が変わってます。でもだいたい丼と名乗る。
本と漫画とゲームをこよなく愛しつつ、しかし時折拒絶反応が出て、なおかつ活字中毒症状が出て死にそうになります。
歴史とか神話とか宗教とか大好きです。
哲学無き人生は無意味。とか言ってみる。

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